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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)10587号 判決 2000年12月22日

原告

甲野乙子

右訴訟代理人弁護士

岩永惠子

被告

丙野太郎

主文

一  被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一二年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  本件は、原告が、被告のいわゆるストーカー行為によって被った精神的苦痛の慰謝料を請求した事案である。原告は、「被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成一二年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」との裁判を求め、別紙記載のとおり、請求の原因を述べた。

二  被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなされる。

右擬制自白が成立した事実並びに証拠(甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件では、次の事実が認められる。

1  原告は、住所地の建物の一部(以下「本件店舗」という。)で、平成七年ころから平成一〇年二月ころまでたこ焼き屋ないしお好み焼き屋を営業していた者である。

被告は、原告の右自宅から約三〇〇メートル離れた所にあるタクシー会社でタクシー乗務員として勤務している者である。

2  原告は、被告との間では、過去においても現在においても男女関係はもちろんのこと、他の何らの個人的交際、個人的関係もない。

3  被告は、右開店時から本件店舗に客として来店し、途中一時来店しなかった時期があったものの、平成九年一〇月ころから再び来店するようになった。しかし、被告は、このころから原告に対し、客の前で「結婚してくれ。」と言ったり、他の客がいない場面では、「自分の気持ちが抑えられないから襲うかもしれんわ。」などと述べるなどし、いったん来店するとなかなか帰らなくなった。

4  そこで、原告が、被告に対し、来店しないように要求したところ、被告は、本件店舗の前に駐車した車の中から、出入りする客の様子をうかがったり、電話で「好きや」、「店に行きます」などと言うようになり、深夜から早朝にかけて、原告の自宅の玄関前に「好きだ」と書いたメモ用紙を置いたり、原告が外出するのを見かけると、車で追いかけたりするなどして、原告につきまとうようになった。

5  原告は、本件店舗を閉店したほか、実兄や長男とともに被告の勤務先に赴き、原告につきまとわないように要請するとともに、被告の上司に指導方を要請したほか、被告及び右勤務先に対し、内容証明郵便で同様の要請をするなどし、さらに、警察にも対応方を要請した。

6  その後も、被告のストーカー行為が続いたため、原告は、平成一〇年一二月一七日に、被告を債務者として、大阪地方裁判所に対し、面談禁止等の仮処分を申し立てた(同裁判所平成一〇年(ヨ)第三七四一号)。そして、右仮処分事件の平成一〇年一二月二四日の第一回審尋期日において、被告が原告に対し、(1)原告の自宅を訪問したり、原告の自宅に電話をかけたり、原告に手紙を送るなどの方法により、面会を強要すること、(2)原告の自宅及びその付近において原告にまとわりつくことをしない旨などを定めた和解(以下「別件和解」という。)が成立した。

7  ところが、被告は、平成一一年二月からストーカー行為を再開するようになり、原告の自宅付近を徘徊するようになったほか、自転車や車で原告を追いかけたりするようになった。

8  被告は、平成一二年一〇月四日に本件の訴状の送達を受けたが、同年一一月一七日の第一回口頭弁論期日には出頭しなかった。そして、原告代理人は、同期日において、被告は、右訴状送達後も原告の自宅付近を徘徊している旨述べた。

三  右認定によれば、被告は、原告から明示に本件店舗への来店等を拒絶されたにもかかわらず、その後も執拗なストーカー行為を継続しており、被告のこうした行動は、別件和解の成立後も継続されている。被告の右一連の行動は、原告の生活の平穏を侵害し、原告に本件店舗を閉店することを余儀なくさせたばかりか、不安感、恐怖感等の多大な精神的苦痛を与える違法な行為である。そして、右認定にかかる被告の行動態様、近時一定のストーカー行為を刑罰の対象とする「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(平成一二年法律第八一号)が成立し、ストーカー行為の違法性が社会的にも強く意識されてきていること並びに被告は前記仮処分事件で自己の行為の是非を検討する機会を与えられ、別件和解を成立させながら、これを無視して、その後もストーカー行為を継続していることに照らせば、被告の前記一連の行為は、強い違法性を有するものであり、これらの事情に本件記録に現れた一切の事情をも斟酌すると、原告が被った精神的苦痛を慰謝する慰謝料は、三〇〇万円が相当である。

四  以上によれば、原告の本件請求は、被告に対し、慰謝料三〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成一二年一〇月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度でこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、前記説示の被告の行動態様をふまえて訴訟費用を全部被告に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・田中敦、裁判官・和久田斉、裁判官・平野剛史)

別紙<省略>

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